●ホーム●ニュース●コラム●07.12
横校労ニュース
トピックス
●コラム
 書評 裁かれた罪 裁かれなかった 「こころ」  ―17歳の自閉症裁判―
   著者の佐藤幹夫氏は、 浅草で女子大生が殺害された事件をテーマに 『自閉症裁判―レッサーパンダ帽男の 「罪と罰」』 (洋泉社 二〇〇五年三月刊) で広汎性発達障害者による刑事事件の問題について著し、 本書はその続編とも言うべき著作である。
 二〇〇五年二月に寝屋川市の小学校で十七歳の少年による教職員三人の殺傷事件が起きた。 加害者は精神鑑定の結果、 広汎性発達障害と診断されたことから、 事件の重大性と不可解な動機、 責任能力と処遇など様々な困難な問題を内包して見過ごすことができない事件として、 逮捕から判決に至る過程を追ったものである。
 著者は、 前著作とも言うべき 「自閉症裁判」 の中で、 現在の裁判制度や加害者の内面理解では発達障害者の犯罪を正しく理解できないものとして、 このような大きな事件を同様の事件理解のためのリーディングケースにする必要を訴えていた。 同時に、 犯罪を犯した障害者、 特に知的障害者の処遇の問題にも踏み込み、 刑務所が障害者の収容施設化している現状を直視すべきだとしていた。
 今回の著作では、 加害者が十七歳という少年であり、 出身小学校で教職員の一人を死亡させ二人に重傷を負わせるというショッキングな犯行に対して、 どのような処遇が必要なのかを、 改正された少年法の問題点を浮き彫りにさせながら裁判の審理を追ったものである。 殺人事件などの重大な少年犯罪に対する原則検察官送致 (逆送) という厳罰化された少年法改正の問題にも焦点を当て、 この寝屋川市の事件を分析している。
 著作の中では、 裁判の審理で広汎性発達障害を有する少年の犯行動機を、 専門家の証言で明らかにしようとする過程が詳しく表現されている。 専門家として主治医が自らの責任の範囲で述べることに対し、 検察側はあくまでも従来の犯罪の動機、 様態の枠で 「処罰」 すべきだという立場を超えることをせずに専門化の証言を捉え、 導こうとしていることが分かる。 一方弁護側は、 これまでの犯罪理解では広汎性発達障害の犯罪をとらえることができないとして、 具体的には少年刑務所での受刑でなく、 少年院での処遇を引き出そうとする。 従来の刑法上の概念を使うとすれば心神喪失か、 心神耗弱かの判断を求めることしかないのだが、 広汎性発達障害での犯行はそのいずれでもなく、 もしいずれかの状態を認めれば、 平常時の状態が心身喪失か耗弱かであるということになってしまうという隘路に陥ることになるのであるが、 だからといって著者はこのような障害を有する犯罪をただ免罪せよと言っているのではない。 少年にとって意味のある謝罪、 更生は何かである。
 この事件は、 無期懲役の判決が確定した浅草のレッサーパンダ帽男の殺人事件と異なり、 マスメディアでも裁判の経過が詳しく報じられた。 二〇〇六年一〇月、 初公判からほぼ一年を経て一審の判決が言い渡された。 懲役十二年の少年刑務所での服役というものである。
 裁判長は、 犯行の動機については背景あるいは動因として広汎性発達障害の影響があることをはっきりと認めたものの、 殺意の存在も認定している。 また責任能力については 「是非弁別能力も行動制御能力も著しく減退している状態には達していなかったと認められる。 よって、 被告人が心神耗弱であったとの弁護人の主張は採用できない。」 として従来の事理弁別能力や規範意識をそのまま採用している。 主治医が理解を求めた (と言うように判断できる) 広汎性発達障害からくる対人相互能力の行動特性の理解の上に立った判断まで深められることはなかった。 特筆すべきは、 裁判長がこの少年の処遇について触れ、 少年刑務所においても適切な処遇と 「犯行の重大さと、 被害者および遺族に与えた苦しみの深さを心の底から感じられるようになることを強く希望するものである」 と一般論的表現ながらも言及したことである。 著者が感想として書いているが、 「刑罰も治療も」 望んだ結果、 社会的影響を考えての苦慮の判決となった。
 しかし、 「おわりに」 で論及しているように、 少年刑務所の現状はとても個別的な処遇、 更生に役立つとはいえない現状にあるのである。 そして少年院のほうが、 少年刑務所より楽であって、 少年刑務所のほうが厳しいと思われていることに関し 「刑務所内では規律をよく守り、 落ち着き、 安定した生活をするだろう。 むしろ少年にとっては楽な生活となる。 しかしそのことが、 社会生活をしたときにしっかりと生活していく力になっているかどうかは別である。 一方、 少年院では、 たえず生活に揺さぶりをかけられる。 “揺さぶり”とは、 自分が何をしたのか、 そのことをどう感じているのか、 被害者に対してはどんな気持ちになっているのか、 たえず問われるというような、 たえまない教育的関与のなかにおかれるということだろう。 こちらの方が、 むしろ少年には辛いはずである、 と。」 と少年院の心理技官の証言を援用している。
 二〇〇七年一〇月、 検察、 弁護双方が控訴した判決が出された。 一審を上回る懲役十五年の実刑であった。                                     (朝倉 賢司)
                    (岩波書店・二八〇頁 二四〇〇円+税)              
©1999-2005 横浜学校労働者組合
本サイトの内容を無断で他に転載,複写する事を禁じます。