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自由社版歴史教科書採択における疑惑と問題点

   朝倉 賢司
 マスメディアを通じて既に報じられたように、 八月四日、 横浜市教委は市内一八区中八区で来年度 (二〇一〇年度) から、 自由社版中学校歴史教科書の採択を決定した。 自由社版歴史教科書は、 先立って出版され多くの批判を浴びている扶桑社版とほとんど同一のものであるが、 ここでは横浜市での市教委採択の経緯と疑惑・問題点について現場教職員、 市民の皆さんに伝え、 訴えたい。
 横浜市教委での教科書採択は、 形式的には教科書調査員が基礎資料を作り、 それに基づいて教科書取扱審議会 (横浜市では校長、 市教委事務局、 学識経験者、 保護者代表の二〇人で構成) が横浜市教委に答申し採択するというもので、 今回も八月四日の教育委員会会議で正式に採択された。 採択当日の市教委会場には、 市民の強い関心のあらわれとして傍聴希望者が定員二〇人の一〇倍を超えるものになったが、 市教委事務局は傍聴席を増やすことはなく、 別会場で二〇〇人以上が音声をきくことしかできなかったのだ。 会議では教科書取扱審議会が答申した資料を基に、 現在ある一八採択区 (行政区と一致) ごとに六人の教育委員が意見交換をした後、 無記名投票で決定された。 公開の場である教育委員会の会議で、 人事案件でもなく重要な決定事項に対し無記名投票にすること自体もはなはだ問題だが、 形式的には一応規則どおり進められたことになる。
 答申では横浜市中学校の歴史教科書は帝国書院、 東京書籍、 自由社、 扶桑社 (自由社と殆ど同一) の四社 (内容的には実質三社) が推薦されている。 審議会では 「それぞれの区にとって望ましい教科書の姿をみたす項目」 として、 下段の表にあるように六項目を挙げ、 各出版社の教科書を検討している。 推薦された結果も勘案し教育委員六人が投票した結果、 八区で自由社が多数を占め、 八区では三対三の同数となり委員長決済で他社、 二区が従来の他社の教科書を決めた。 自由社・扶桑社版は、 六つの推薦項目のうち一項目 (B) のみから九区であげられているが、 他社版は複数の項目の推薦を受けている。 六項目の優先順位はないが、 自由社・扶桑社版はBの 「文化と伝統」 「国民としての自覚」 の項目からしか推薦されていないのは、 編集意図からして当然といえば当然であろうが、 トータルの歴史教科書という観点で問題性のあるものであることが、 資料からもはっきりと読み取れる。 文字の小ささ、 ルビの問題等技術的な点の指摘も出されている。 事実として審議会の推薦が少ない歴史教科書を、 教育委員が特に推して決定したのである。 実質的に審議会の答申を軽視、 無視し、 明確な意図が働いたと言わざるをえない。
 採択した横浜市教育委員六人のうち、 今田忠彦委員長は周知のように横浜市の元総務局長で行政畑を歩んできただけでなく、 四年前の教科書採択時には教育委員として一人だけ扶桑社版を強く推した人物である。 そしてこの四年間に今田委員以外他の五人は総入れ替えとなり、 当の今田委員は委員長となった。 この間の委員会では他の五人の委員の発言を見ても、 結果的に委員長の意向を補佐するものであって、 批判的な発言はなされていない。 教育委員選任は建前の中立性はあるものの、 公選制でもなく実質的に行政の長の意思の反映したものになることは想像できる筈である。 その点で言えば、 横浜市教委の教育委員の構成と今次自由社版教科書 採択は、 まさに中田前市長の 「置き土産」 である。 任期を全うせずに事実上市行政を投げ出し、 登場時の市民派としての合理性・経営手腕と開明性がすっかり色落ち、 最後の土産として置いていったのが教育委員人事であり、 具体的には自由社版歴史教科書に結果したのである。 教育・福祉にあまり関心を払わず、 実質的に 「行政サービス」 の低下を招いた中田市政を批判するのが本旨ではないが、 中田前市長はその責任を免れることはできない。
 ここでひとつ大きな疑惑が生じていることを明らかにしたい。 当人はけっして認めないだろうが、 今田委員長と自由社の関係である。 自由社版歴史教科書の代表執筆者は藤岡信勝氏であり、 その藤岡氏が直接今田委員長に採択を働きかけ今田委員長が内諾していたという内容である。 しかも横浜市の行政幹部、 議会幹部の一部にも報告されていたという。 これが事実であるなら、 出版社教科書の代表執筆者が直接採択先である市教育委員長に働きかけたことになり、 重大な不正を犯したことで絶対に許されないことである。
 もう一つ大きな問題がある。 それは、 一八採択区を一採択区にしてしまおうとの画策である。 今年の六月二三日、 横浜市教委は臨時会において、 現行の一八採択区を一区にする要望書を神奈川県教委に出すことを了承した。 自由社版教科書教科書の採択が先か、 採択区の一区化が先かというどころか、 まさに同時並行的に市内の教科書一元化が図られようとしていたのだ。 市内採択一区の理由が振るっている。 それは、 小中一貫教育の推進で区をまたがって一ブロックとなっている場合があり、 教科書が違うと一貫教育に支障があるという理由をトップにもってきているのだ。 区が違うと検定教科書を使っていても違う教育内容になっているというのか。 教科書採択法には、 付則で人口の多い区の採択区は区ごとにできることが示されているだけでなく、 (種々の問題を内包しているとはいえ) 規制緩和推進の中でもより小規模化が謳われているにも拘らず行なおうとしているのだ。 自由社版歴史教科書を横浜市内全域に導入させるための一里塚とさせてはならない。                                 

 

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