*一年単位の変形労働時間制とは
変形労働時間制とは、労働時間の規制を1日単位から月・年単位で計算できるように緩和する制度で、閑散期の所定労働時間を減らす代わりに繁忙期における所定労働時間を増やすものです。
これを法改正で公立学校教員に適用し、夏休み等の長期休業期間に休日のまとめどりができるようにすることを政府は目的としています。
民間では既に導入され、労基法上では長時間労働の職場で濫用されるリスクから恒常的な時間外労働がない事業所への適用を前提とし、労働者の負担が大きいために労使協定が必要とされています。
11月21日(土)、横浜市健康福祉総合センターにて「1年単位の変形労働時間制」導入阻止を目的とする学習会が開催されました。
講師に、教員の長時間労働問題に精通し、国会で参考人として意見陳述をされた嶋﨑量弁護士をお招きし、制度の阻止に向けた理論的な裏付けを確認する有意義な場となりました。
そもそも 労働時間規制の目的は?
学校現場では残業代が出ない、休憩時間もほとんど取れないという実態があり、労働時間という概念が希薄です。
嶋﨑さんは、そもそも労働時間を規制する目的というところからお話をされました。
教員に限らず、そもそも労働時間を規制する目的は
①命と健康
②生活時間
③民主主義の基盤
を守るためであり、だからこそ社会全体の課題であるとの捉え方を示されました。
労働基準法は労働時間を規制し、法定労働時間を1日8時間と定めています。これは、1日のうち8時間は労働に、8時間は休息のために、8時間は好きなことのためにという意味があります。
例外として、1日8時間を超える場合は使用者と労働者が協定を締結し、残業代(25%増)が支給されます(36協定)。
残業代の意味とは、割増賃金支払いにより、時間外労働を抑制することにあります。そして、もう一つ例外としてあるのが変形労働時間制です。
しかし、学校現場では一日8時間労働、それを超えれば残業代などというものはなく、長時間労働が恒常化しています。
公立学校教員と給特法の不合理
教員の長時間労働が恒常化している大きな要因は給特法です。
法制度上、時間外勤務を命じることができるのは超勤四項目(生徒の実習、学校行事、職員会議、非常災害緊急措置等)で、給料月額4%を教職調整額として支給する代わりに残業代を払わない、原則時間外勤務を行わせないことになっています。
常態化している時間外労働の多くはこの限定四項目以外であるという実態と乖離した制度により、労働時間管理という意識が教員も管理側も麻痺しています。
では、一年単位の変形労働時間制が導入されることはどんな意味があるのでしょうか。
公立学校教員への制度導入の弊害
嶋﨑さんは次の点を指摘されました。
・制度の導入はまず不要である
休日のまとめどりを実現させるならば特別休暇を条例で定めれば事足りる
・弊害を多数もたらす
①繁忙期の労働時間を増加・固定化する
実は変形労働時間制は民間では多くの職場で導入され、残業代不払いの手段として悪用されているということです。
給特法がある教員の場合は今も残業代は支払われず、残業代削減のメリットはなく、あえて導入するのは残業時間を見かけ上減らすことにあります。
②導入できる状況でない
制度の導入にあたっては前提条件が示されています。その中には、育児や介護等を行う者に配慮すること、在校等時間が指針に定める上限時間(月42時間、年320時間)の範囲内であることなどが定められています。
働き方改革関連法の影響で、公立学校教員にも「在校等時間」(「労働時間」ではない!)の上限が定められています。この上限が皆さんの職場で守られているかどうか、明らかだと思います。また別の問題として、この上限時間を守らせるために持ち帰り残業やジタハラ(長時間労働を削減するための施策がないまま時短を強要する)が横行する危険性もあります。
③労使協定無視
民間で制度を導入するには労使協定が必要ですが、教員への制度導入では条例で定めることとなっており、この労基法上の歯止めがありません。一方的に労働時間を割り振ることが可能となってしまいます。
④改善の機運を削ぐ
以上のような弊害があるにもかかわらず、教員の働き方改革と銘打って”やった感”だけが世間に広まり、むしろ働き方を悪化させるということが認知されないままになってしまいます。
現場の実態は・・
会の中で、小・中・高・特支の各学校現場の状況が報告されました。
小・中では部活動が盛んな学校における教員の長時間労働や夏季休業中も休めるわけではなく研修や部活などの業務がある、休憩時間が取れず、取れていないことを客観的に記録する術がないなどの実態が問題点として上がりました。
変形労働時間制導入の条件には、文科省が定めた部活動ガイドラインの遵守もあります。
今年度はコロナ対策の影響もあり、活動はやや縮小化されましたが、それでも恒常的な時間外労働で部活動指導が占める割合はいまだ多いのではないでしょうか。
特に早朝や土日の活動は教員の生活時間に大きく影響する要因となっています。
制度導入の阻止のために労働時間管理の徹底を
文科省は給特法との整合性を取るために「在校等時間」というものを作りました。
これは休憩時間を除いて超勤四項目以外の業務を含めた校内に在校している時間で、時間外勤務の上限目安としたものです。
労基法上の労働時間ではないというとんでもない定義ですが、少なくとも、時間外勤務をした部分は記録として残す必要があります。
また、小中学校では休憩時間を取ることがままならない職場が多いと思いますが、横浜市の庶務事務システムには休憩時間に時間外労働をしたことを記録することができません。
ここは当局に要求し、客観的な労働時間の把握を求めることが重要であるということでした。
教員の長時間労働は社会全体の課題
嶋﨑さんは、そもそも教員の長時間労働(”多忙化”とは言わない!)は、社会全体の課題として声を上げるべきだとお話しされました。
教員自身の命と健康を害し、教員の家族にも影響して生活時間が損なわれ、教育の質の低下を招くということです。
子どものためにこそ働き方を示せ
”子どものために”という大義名分をもとに長時間労働を進んでやっている人は職場を害していると嶋﨑さんはおっしゃっていました。
むしろ、子どものためにこそ長時間労働を是正すべきであり、働き方を子どもたちに示すことが責任だというお話をされていました。
そのためには、法制度やその運用を学び、活用することであるということでした。
労働組合の役割は重要
制度導入阻止のために、行動を起こすこと、特に、労働組合の役割が重要であることをあげていました。
変形労働時間制導入は教員の勤務条件に大きく影響をもたらすもので、地方公務員法55条に基づく職員団体の交渉申し入れに対し応じなければなりません。
在校等時間の客観的な把握、休憩時間の取得状況把握などを求め、一人より集団で声を上げ、社会を動かす必要があるということでした。
横浜市は判断保留
横校労は制度の導入阻止を市教委に対して申し入れを行い、交渉しました。
当局の回答は他都市の動向を見ながら慎重に検討すると、積極的な導入の姿勢は見せていませんが、北海道などではすでに条例が制定されており、予断を許しません。
教員の労働時間の実態を把握し、長時間労働の常態化を是正にしっかりと向き合うべきであるとの要求をしました。
横校労はこれからも市の条例制定を許さない運動を進めていきます。
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