【3.11と私】福島の牧場を描く 第1回

山内若菜 3.11と私

私は20代から抽象的な絵を描いてきました。何を描きたいのか迷いながらもがむしゃらに描いてきました。

バングラ雑誌

 バングラディシュやロシアで個展をするなど、海外へ行ってその都度、刺激を受けてテーマにしてきました。動物はずっと好きで描いていました。身近な自然も描いていました。どこでも自分の生活や居場所を描いていました。

バングラディシュでは、「これは原爆の絵か? ヒロシマか? ナガサキか?」と聞かれました。びっくりしました。ダッカ大学校内での展示でしたが、政治に関心がある学生さんが多く、一般のお客様も3000人くらいの来場者。英語で話しかけてきます。

そして私の絵に自国の希望の光を見てくれた方もいました。「これはバングラディシュの絵だ。混沌とした中に希望の光を見つけることが出来る」と言ってくれました。汚い絵の中にちょっと綺麗な部分があるとも言える私の絵は、まさにバングラディシュの人の気持ちにすっと入る事を可能にしてくれたようでした。でも、「日本人って、世界ではまずは「ヒロシマ」と直結しているんだ」とも実感しました。

 そんな経験がある一方、所属する絵画団体では「画家は、絵で社会的なテーマを扱ってはいけない。そしてものは絵が言えばいい。言葉で語ってはいけない」と先輩方や画家仲間から言われ続けてきました。

もともと、父親が平和運動、市民運動をしていたので、平和憲法の大切さを親に教えられ、自然に隣にありました。母は私が生まれてすぐ絵の学校へ通いだし、やりたいことをやりたいと絵を描いて立体をつくっていたので、いつも絵の課題が家にある幼年期を過ごしていました。社会的な運動や平和活動、絵画や立体物、その両方が自然にある家庭に育ちました。

 しかし、3.11という世紀の大災害と原発事故という人災のあと、自然エネルギーへの転換という世界の動きの中で、原爆にも原発事故にも被害を受けた日本に生まれた絵描きの私は、思ったのです。「もっと出来る表現があるのではないか」

 沖縄の辺野古や高江での横暴も、福島の自主避難者の帰還政策も、みんな「命よりお金」の政策です。ルールのない今に対し、怒りを含めた人らしさ、自然、その美しさを出していきたい、と思いました。

 もちろん周囲のみんなからは、「原発」「放射能」「福島」、そのようなテーマは邪道だということで風当たりはかなり厳しかったです。でも私は最初に2013年、福島に行き、子供を持つ女性の意見を聞いて、大きく心が動きました。

絵にしたい、大きく描きたい。でも当時の私はまだ大きな絵を描いたことがなく、技術的に未熟でした。だから責められるのも仕方ない面がありました。

ロシアの仲間と一緒に描く

 だからといって、社会的なテーマに挑もうとした産声の段階で、それを描く、挑戦することすら制約されてしまうのは、「感性支配」ではないだろうかと思いました。

 そして3.11後、団体のメンバーに大反対されるような絵を堰を切ったように描き始めました。表現は本来、それさえも受容する深く尊い産みの母であり、大海原なる存在ではないだろうか。絵に対して私はいつも畏怖の気持ちを持ち続けています。

自然を拝むように。怖い存在でもあり、ままならない尊い存在だからこそ挑み、それと一心同体となりたがるのではないかしらと。そして私は身体で感じてみたいと思っています。野性や本能や直感、第五感があるならば、そういうものを研ぎ澄ませたい。だからこそ、3.11前のように、言われるままにテーマを選ぶのを止めました。

見てしまった、知ってしまった今、それを描きたい。この国に住み、いえ世界中のどこに住んでいても、きっと目にする光景があります。今何が起きているか、という事に意識を向ければ、それらは見えてきます。

”牧場”前にて講演

 ただ、表現は、技術が伴うもの。そして学校で勉強したような礎のように深い考察が必要です。デッサンにしても、人体にしても、ひとつもわかっていないという姿勢で望まなければなりません。格闘しながらの苦しい修行の日々です。

私はSNSに毎日絵を描いて投稿します。学ぶにしても、今はインターネットがあって、視覚的な勉強が出来る時代になったことがとても嬉しいです。情報過多と言われる世の中で、何が自分にとって大切な対象なのか、一番勉強になりうる対象か、テーマとして適しているものか、じっくり取捨選択する時代になったのだと思います。

【山内若菜(やまうちわかな)】

1977年    神奈川県藤沢市生まれ

2009年からロシアでシベリア抑留の歴史を忘れない文化交流を開始。日露友好個展、以後継続。

2013年から福島県に通い、2016年から福島の母子像や被爆の牧場を描いた展示を各地で開催。中学校などで芸術鑑賞として展示と講演活動を行う。

2016年原爆の図 丸木美術館にて「牧場 山内若菜展」を開催。

2017年ロシア極東美術館にて「牧場展」開催。

山内若菜情報はこちら

山内若菜HP   http://www.cityfujisawa.ne.jp/~myama/

若菜絵ブログ  http://wakanaeblog.seesaa.net/ または「若菜絵ブログ」と入力

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