中教審での議論
現在政府は本年1月の中教審答申に基づき、学校への「変形労働時間制」導入を進めている。昨年8月末、中教審で変形労働時間制の検討されたことが報道された。
同9月、旧10年次研修を受けていた私は、来場していた妹尾氏(当時中教審委員)に導入についての見解を質問。「確かに今後、検討されるが簡単ではない。それにより働きやすくなるかは分からない」との趣旨の回答があった。
当時、中教審を傍聴していた私は、労働条件の低下を意味する変形労働時間導入が検討となれば、実現性は確実と踏んでいた。
中教審「学校における働き方改革特別部会」議事禄(第17回)を見てほしい。小川部会長による「残り、もう15分しかありません」という発言の前後で1年単位の変形労働時間制を推す委員からの発言が確認できる。
変形労働時間制の内容
平成31年1月25日中教審答申はネットで閲覧できる。80ページの文書、一読に時間は要するが、上記研修よりも、参考になる箇所あり、笑止を超えて爆笑の箇所ありで楽しめる構成になっている。特に変形労働時間制については、一読の価値がある。
「一年単位の変形労働時間制を導入することで,学期中の勤務が現在より長時間化し,かえって学期中一日一日の疲労が回復せずに蓄積し,教師の健康に深刻な影響を及ぼすようなことがあっては本末転倒である。導入に当たっては,日々の休憩時間の確保に確実に取り組みながら,(・・・中略・・・・)段階的に全体としての業務量を削減し,学期中の勤務が現在より長時間化しないようにすることが必要であり,所定の勤務時間を現在より延長した日に授業時間や児童生徒の活動時間も現在より延長するようなことはあってはならない。その上で,休日の増加によるゆとりの創造と年間を通じた勤務の総時間の短縮を目的に,その導入が図られるようにしなければならない。」
(答申p.49)
よくここまで言えたものである。パンチのきいたギャグなのだろうか?否、霞ヶ関文学か・・・
「一年単位の変形労働時間制を導入により,学期中の勤務が長時間化し,学期中一日一日の疲労が蓄積し,教師の健康に深刻な影響を及ぼすようになる(・・・中略・・・),所定の勤務時間を延長した日は,授業時間や児童生徒の活動時間も延長するようになる」のは、現職の教員であれば誰でも分かることである。
超勤は存在しない
2015年秋、全学労組の文科省交渉に初めて臨んだ際、初等中等教育局の官僚の「教員の超過勤務は原則として存在しない」という発言に、私は一瞬、聞き間違いと思い、隣席のベテランに聞き直したのを覚えている。
「いまや学校の業務の3分の1は、教員の超勤で成立しているのに…?」その後、私はこの官僚の発言を理解するのに時間を要した。ありていに言えば、この現実離れした発言の根拠が「給特法」である。
給特法については、本紙でも、各メディアでも解説されている。詳しくは述べないが、給特法は「前提として、教員の勤務時間は計測不能とし、超勤手当は馴染まない。そのため教員には超勤を命じない」としている。
まさに「有名無実の前提」であるが、現在も効力をもつ給特法を盾に「超勤は存在しない」となったらしい。その後、政府から「働き方改革」が掲げられ、官僚の発言内容はトーンダウンしたが、変形労働時間制を用いて「存在しないはずの超勤」を解消(=実際には一部を隠蔽)しようとしている。
これを論理破綻と言わず何と言おう。
給特法との矛盾
答申には変形労働時間制導入の前提として「全体としての業務量を削減し」「勤務の総時間の短縮」など、現場を慮るような記載が並ぶが、これらは全て空手形となる。
前述の文科省交渉、「超勤はない」と言い張る官僚に、愛知県春日井市教委が開示した月80時間を超える教員の超勤記録を見せると「服務監督権は地教委にある。コメントはない」との一点張り。
変形制が悪用されても、文科省は「然るべき前提は示した。監督権は地教委」と知らん顔を決め込むのだ。
まずは、文科省、地教委は教育行政を管轄するものとして、給特法を破たんさせる政策を50年間、遂行したことを認めよ。その上で、給特法を改廃することが先であろう。給特法を活かしつつ、変形労働時間制を導入することは矛盾に他ならない。
1年単位の変形労働時間制
1ヵ月以上1年未満の期間を対象期間と定めて、年間の平均労働時間を1日8時間・週40時間にするための制度。使用者側による制度の乱用を防ぐため、労働時間は1日10時間以内・週52時間以内と制限されている。中教審では「週に3日間1時間勤務時間を延ばした場合、年間15日間の休日に相当する分の時間が出る」など議論がなされている。
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