2016年、丸木美術館で、作品「牧場」15メートル
第一部という立体作品に初めて挑戦しました。またここで学芸員、岡村幸宣さんと知り合う事ができました。
岡村さんは、2017年4月刊行された著書、岩波ブックレット『《原爆の図》のある美術館/丸木位里、丸木俊の世界を伝える』の中で、私のことを「被災地を丹念に取材して絵を描き続ける画家」の一人として紹介してくださっています。
そして、2018年の中和ギャラリーでの牧場パノラマ展について「3年前の丸木美術館での展示から、さらに拡張し続けてきた牧場の絵画が、360度の円環状の展示となって、観る者を包み込む。洞窟の岩肌を思わせる和紙の大画面。海のようにも草地のようにも見える青緑色の水平線。希望の象徴のペガサスに加えて、ヤンバルクイナや第五福竜丸の船影も描きこまれ、時間軸が多層化している。福島であり、沖縄であり、チェルノブイリであり、マーシャル諸島でもありながら、現実から飛翔していく彼女の心象風景なのだと思う。描ききれないほど複雑なテーマに引き裂かれながら悶えて、それでも描かずにはいられない、青い炎のような強靭な小宇宙」と評してくださいました。
私の絵「牧場」は、現在は、2.5m×30m程です。作品の支持体はクラフト紙で、その上に薄い和紙などを貼り込んでいます。幾重にも重ねているので、かなり厚みがあります。
しばしば紙粘土も貼り、またそれを剥がす作業も繰り返しています。主に墨や胡粉を用い、岩絵具や水干絵具を膠でといて塗り込み、また好んでカラメル色素も使います。
次々と更新されていく画面は物質性が加味されていきますが、同時に布で拭き取られたり、洗い流されたり、紙ヤスリで削りとられたりしながら、絶えず変化しています。
これらの試行錯誤、暴力の痕跡の積み重ねのような地肌の中から浮かび上がるように死んだ馬を抱く牧場の娘、核の海を航海する第五福竜丸、飛ぼうとするヤンバルクイナ、叫ぶ牧場主の胸の星の光から飛び立つペガサスがいます。
絵の前に立つ人はそれぞれ、様々なイメージを見いだすようで、宝探しのように見る方もいれば、作品に抱かれ、事故直後のようだと当時を思い出す人もいます。
牧場に光が差し込む日常の情景を描きつつ、ペガサスが飛び立つという、自分の見たい「光」も描いています。
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