【教科書採択】教科書採択の八月を前に

教科書採択

 新しい学習指導要領が実施される二〇二一年から使用される教科書採択が、横浜市では今夏八月に開かれる。昨年八月の教育委員会会議では今年度一年間使用される教科書が、前年度までの教科書の継続使用で採択されている。

本年採択の焦点は中学校の社会科(歴史、公民)と道徳の教科書採択である。

横校労は、横浜市での「新しい歴史教科書をつくる会」(以下「つくる会」)系の中学校歴史教科書採択が初めてなされた二〇〇九年から、外部の歴史教育の研究者と共に一貫して「つくる会」系教科書の内容的全面批判をしてきた。

あれから既に十年以上が経過し、学校現場ではその間の経緯や内容について未知の教員の多くなり、改めて問題点を指摘したいと思う。

  二〇一〇年から中学歴史で二年間使用されたのが「つくる会」系の自由社版だった。

任期を待たず市政を放り出した中田宏前市長が置き土産で任命した元総務局長今田忠彦教育委員会委員は、それまでも唯一人右派系の扶桑社版を押していたが、委員長になるや自由社関係者からの違法行為である働きかけに応じ採択を画策したと報じられ、結果的に自由社版が採択された。

これに対し横校労は官製指導書ならぬ内容批判の「もうひとつの指導書(自由社版)」を完成させ、五〇〇箇所に及ぶ内容的誤り、問題点を指摘した。

写真の複数の裏焼きや初歩的な誤りもあまりにも多かった自由社版に替わり、育鵬社版が使用されるようになったのが二〇一二年からである。

育鵬社版歴史教科書も「つくる会」系であって、内容的には自由社版と同様に勤皇民族史観というべき「万世一系の天皇」を軸とする歴史観に貫かれた教科書である。

横校労は育鵬社版に対しても「もうひとつの指導書」を続けて刊行し学校現場での批判的活用に供してきた。

そして、対育鵬社版指導書作成過程での研究者を核に、二〇一三年には「歴史教科書に対する〈もうひとつの指導書〉研究会(略称:もうひとつ研)」が結成され育鵬社版改定に対応した「もうひとつの指導書(改訂版)」を二〇一六年に刊行した。

この間市長選では「つくる会」系教科書採択が自民党市議団の市長推薦の条件になるという報道があるなど、日本会議系の「草の根市民運動(?)」などと相まって政治的な動きが強く働いていたことは多くの報道で示されていた。

横浜での歴史教科書採択の経緯を縷々説明したが「公民」も育鵬社版が採択され、採択区も一八行政区から全市一区化になるなど逆流ともいうべき状態にあるのが、この一〇年間の現状なのである。

  今夏の教科書採択では道徳や公民教科書の問題もあるが、この小欄では中学歴史教科書に絞り取り上げたい。

安倍内閣成立以降、教育基本法の改悪に始まり政府寄りの教科書作成を各出版社が検定を通すために自主規制的に過剰反応し内容表現を変更が進められてきた。中学校歴史では「従軍慰安婦」表現撤回や領土問題などで顕著だ。

日本会議や「つくる会」などによる教科書参入の一方で市民や現場教員、学者などによる「学び舎」の教科書づくり運動も結実した。

「つくる会」系教科書では横浜で使われている育鵬社版は、創刊以来よりソフトな表記に変化しつつあるが内容的には基本的に変わっていない。近現代史では日本の侵略戦争、植民地支配の正当化である。

近現代史以前の朝廷の役割の取り上げ方も問題である。育鵬社版は「なでしこ日本史」を創刊から掲載しているが、一見女性を尊重するかのようなに見せその実男性優位の家庭を守る女性観の押し付けになっていることは変わっていない。

今回の学習指導要領では「考え議論する学び」(アクティブラーニング)が出されている。育鵬社版は大阪、横浜の歴史を調べる「ワクワク調査隊」としてそれぞれ6頁、4頁を割いている。

全国的には採択率6%のほとんどを横浜と大阪が占めていることから、今年もこの2都市の採択を確保しようとする見え透いた編集だ。

また今年特に触れなければならないのは、自由社版の歴史教科書が検定不合格になったことである。

彼らの運動の先兵的役割を終え、その生硬でより直接的天皇制賛美表現をもはや国家行政が必要としなくなり、よりソフトな表現である育鵬社版で役割を果たせるとしたのだろうか。

はたまた他社の多くの歴史教科書が独自性を失い政府方針に靡いて来たことによるとも言えよう。なお、今回の社会科歴史の検定では9社が申請し、「自由社」と「令和書籍」の2社が不合格であった。

また一九九七年には当時のすべての教科書が掲載した「従軍慰安婦」表現を、今回初めて中学で出した「山川出版」と「学び舎」が載せている。

 中学歴史以外についてみると、中学公民の育鵬社版と自由社版、道徳の「日本教科書」と「教育出版」の内容についても注視してほしい。

日本会議などが明確に政治的動きとして学校現場に様々な方法をもって導入を図っている事実は見逃してはならない。

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